3つの問題
遺言の内容を決めるためには、次の3つの問題を検討しなければなりません。
- 財産・事業の承継の問題(希望する者に財産・事業を承継できるか)
- 遺留分の問題(相続人の遺留分を侵害しないか)
- 相続税の納税の問題(相続人、受遺者が相続税を納税できるか)
遺言を作成するにあたって、遺言者本人の気持ちがもちろん一番大事ですが、それによって他の相続人の遺留分を侵害して遺留分をめぐる裁判になってしまったり、財産をもらった相続人が納税に困ったりするような事態は避けなければなりません。したがって、遺言の内容を検討するにあたっては、上記3つの問題をできる限り解決できるように工夫する必要があります。
財産・事業の承継の問題
1. 不動産の承継
不動産の承継を考えるには次の事柄を検討する必要があります。
- 不動産の使用者、使用方法
- 不動産の評価額
- 全財産のうち、不動産が占める割合が高い場合には、他の相続人の遺留分を侵害しないか
- 評価の高い不動産を承継させる場合には相続税が支払えるか
- 将来不動産の管理、処分をめぐって争いにならないように、不動産の承継は出来る限り共有ではなく単独所有となるように配慮できているか
- 複数の収益不動産を所有している場合には、収益不動産を分散させてしまうことで、収支が悪化することはないか
- 不動産の管理に負担がかかる場合には、金融資産を多めにわたすなどの配慮をしているか
2. 事業の承継
事業の承継を考えるには次の事柄を検討する必要があります。
- 事業の承継者は誰か
- 自社株の評価額
- 会社への貸付金、会社が使用している遺言者名義の不動産の存否
- 全財産のうち、自社株、貸付金、会社が使用している不動産の割合が高い場合には、他の相続人の遺留分を侵害しないか
- 事業を承継させる相続人が相続税を支払えるか
- 会社の経営をめぐって争いとならないように、後継者に自社株が集中するように配慮できているか
3. 金融資産の分配
金融資産の配分を考えるにあたっては、次の事柄を検討する必要があります。
- 老後の面倒をみてくれている、後継ぎになってくれているなどの相続人、受遺者と遺言者との関係性
- 生前贈与の有無、金額
- 相続人、受遺者がそれぞれ相続税を納税できるか
4. 債務の承継
アパートローンなどの債務がある場合には次の事項を検討する必要があります。
- アパートローン、住宅ローンがある場合、債務の承継をめぐって争いとならないように、その不動産を渡す相続人、受遺者がローンを承継できるような工夫ができているか
- 相続後、債務の返済に困らないように金融資産を多く渡す必要があるかどうか
遺留分の問題
1. 遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められた遺言者の意思によっても奪うことができない相続権のことをいいます。遺言や生前贈与等によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害する他の相続人に対して遺留分侵害額の支払いを請求することができます。(これを「遺留分侵害額請求権」といいます。)
遺言書を作成するにあたって、自分の気持ちを優先して、一部の相続人にほとんどの財産をわたすような場合には、他の相続人の遺留分を侵害してしまうおそれもあります。
なお、遺留分侵害額請求権は、
- 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき
- 相続の開始時から10年を経過したとき
に消滅します。
2. 遺留分の割合
原則:法定相続分の2分の1
直系尊属のみが相続人であるとき:法定相続分の3分の1
※ 子のいない夫婦など、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹(又は甥、姪)のみの場合、遺留分は認められませんので、遺言によって自由に財産の承継先を決めることができます。
例1 相続人が、妻、子3人(長男、二男、三男)の場合
妻の遺留分:法定相続分1/2×遺留分割合1/2=1/4(25%)
長男の遺留分:法定相続分1/6×遺留分割合1/2=1/12(8.3%)
二男の遺留分:法定相続分1/6×遺留分割合1/2=1/12(8.3%)
三男の遺留分:法定相続分1/6×遺留分割合1/2=1/12(8.3%)
例2 相続人が両親のみの場合
父の遺留分:法定相続分1/2×遺留分割合1/3=1/6
母の遺留分:法定相続分1/2×遺留分割合1/3=1/6
例3 相続人が夫と両親の場合
夫の遺留分:法定相続分2/3×遺留分割合1/2=2/6
父の遺留分:法定相続分1/6×遺留分割合1/2=1/12
母の遺留分:法定相続分1/6×遺留分割合1/2=1/12
3. 遺言による遺留分の問題の解決方法
遺言によって遺留分の問題を回避するためには次の方法が考えられます。
(1) 財産の割合を変更する。
まずはご自分のお気持ちで財産の分け方を決め、その遺言の内容によって遺留分侵害のおそれがある場合には、遺留分を満たすように金融資産の割合を変更したり、不動産の承継先を変更したりしてできるだけ遺留分侵害のないような遺言書を作成します。
(2) 付言事項を書く
遺言書には、財産を誰に渡すかという本旨に加え、遺言を作成した理由や、葬儀の方法についての希望など、相続人に向けてのメッセージを「付言事項」として記載することができます。この中に、「○○家は、長男○○に守っていってもらうことになるので、長男○○に遺産を多く相続させることにした。このような気持ちを尊重して、二男○○は遺留分侵害額請求などしないようお願いする。」というように、自分の気持ちを書いておくことで、一定の抑止効果を期待することができます。
(3) 遺留分侵害額の負担割合を指定しておく
遺留分侵害額請求を受ける受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて遺留分侵害額を負担することになります。
しかし、民法上、遺言で別の扱いをするように意思表示することが可能とされておりますので(民法1047条1項2号但書)、負担割合を指定することができます。
相続税の納税の問題
相続税軽減策や税法上の特例を利用するためには、該当資産が適切な相続人に分配されなければなりません。そのために、遺言を活用することが考えられます。例えば、以下のような事例です。
1. 一代飛ばし
遺言等がなければ、法定相続に従い、親から子に財産は相続されます。そして、その子がなくなれば、また子(孫)に相続され、通常の相続であれば、2度にわたって相続税が課税されることになります。
一方で、親から孫へ一代飛ばして相続させると、2回発生しかねない相続税の危険を1回に減少させることができます。このような一代飛ばしをするために、遺言書を活用することが考えられます。
2. 小規模宅地等の特例の使用
同居している子供に自宅を渡す場合など、一定の要件を満たしていると、自宅の不動産については相続税評価が低く抑えられ、相続税の節税につながります。したがって、小規模宅地等の特例の要件に該当している相続人が当該宅地を相続できるよう、遺言を残しておくことが考えられます。
3. 二次相続(配偶者の相続)を考慮した、財産の承継
配偶者が遺産を相続するに際しては、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法第19条の2)が規定されており、配偶者が法定相続分(あるいは1億6,000万円)に従って相続する限りにおいては、配偶者に基本的に相続税が課されることはありません。
そこで、節税という観点からすれば、基本的には、配偶者に法定相続分(あるいは1億6,000万円)の限度まで相続させることが好ましいといえます。
もっとも、配偶者自身が固有の財産として多額の財産を有している場合には、節税の観点から二次相続(配偶者の相続)に係る相続税を考慮し、配偶者に相続させずに、配偶者の子などに直接相続させることが好ましいこともあります。
そこで、相続税が心配な方は、配偶者に対する相続税額の軽減を考慮し、一次相続、二次相続トータルで相続税が一番低くなるような配分を計算し、遺言の内容を検討する必要があります。
遺言、遺留分、相続税に強い弁護士に依頼する
このように、遺言の内容を決めるにあたっては、遺留分の問題、相続税の問題など検討する課題が専門的な分野に及ぶ場合があります。安易に作成した遺言書で、結局遺留分をめぐって裁判沙汰になったり、財産を多く上げた人が相続税の納税で困ったりしないように、遺言の内容の検討にあたっては弁護士などの専門家に相談するのが安心です。
当事務所所属の弁護士は、遺言・相続の専門家として、多数の遺言書作成の実績があることから、遺言の内容を決定するために検討すべき遺留分の問題や相続税の問題に精通しております。
さらに当事務所が所属するグループには税理士法人も所属しており、相続税の試算や自社株評価等、より高度な遺言書作成のためのサポートも充実しております。
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