遺言の無効
遺言に無効事由があると、遺言が無効になってしまいます。遺言無効事由としては
- 遺言が方式を欠くとき
- 遺言者が遺言年齢(満15歳)に達していないとき
- 遺言者が遺言の真意を欠くときや意思能力(遺言能力)を有しないとき
- 遺言の内容が法律上許されないとき
- 被後見人が後見の計算の終了前に後見人又はその配偶者もしくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたとき(民法966条)
などがあります。
遺言の取消し・撤回
また遺言に詐欺や強迫などの遺言取消事由があって遺言が取消された場合、遺言効力は失われます。遺言効力は、遺言の成立時でなく、遺言者の死亡のときから発生するとされています(民法985条)。その一方遺言者はいつでも遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができます。
また、遺言で財産承継の方法を規定した場合であっても、その後、その遺言内容と異なる生前処分を行うことは自由です。その場合、生前処分と抵触する部分について遺言を撤回したものとみなされます。その場合、遺言効力は発生しない結果となります。
自筆証書遺言の偽造の可能性がある場合(筆跡が遺言者本人のものかどうか疑わしい場合)への対応策
1. 自筆証書遺言の自書の要件
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書しなければなりません。自筆証書遺言は証人や立会人の関与なく作成される遺言であるため、遺言書が遺言者の意思によって作成されたものであることを明らかにするために、この自書の要件が設けられています。自筆証書遺言の筆跡が遺言者本人のものかどうか疑わしい場合には、どうすればよいか問題となります。
2. 遺言無効確認訴訟
自筆証書遺言は、遺言者の自書の要件を欠けば、遺言としての効力は生じません。よって、筆跡が疑わしいことを理由に遺言の効力を争いたいと考える場合には、遺言無効確認訴訟を提起することとなります。この裁判での争点は、遺言者が遺言書を自書したかどうかという点に集約されます。
自書性の検証の方法としては、筆跡鑑定が中心となるほか、生前の遺言者の言動等から推認される遺言者の意思からして、遺言書に記載された内容が不自然でないかという点についても考慮されることがあります。筆跡鑑定の前提として、遺言者が自書を行った他の資料(日記や書簡等)が必要となりますので、これらの資料を収集しておく必要があります。
遺言の効力発生時
1. 遺言の効力発生時
遺言は、遺言者が民法等に規定されている方式に従って遺言書を作成することによって成立します。遺言は、相手方が存在する契約とは異なり、遺言者が一方的に行うことができる単独行為とされています。
その遺言の効力は、遺言の成立時でなく、「遺言者の死亡の時」から発生するとされています(民法985条)。遺言は、遺言者の最終の意思を尊重する制度であるため、遺言の成立時にその効力の発生を認めてしまうと不都合が生じるからです。
2. 遺言の撤回、変更の自由
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができます。
また、遺言で財産承継の方法を規定した場合でも、その後、その遺言内容と異なる生前処分を行うことは自由です。その場合、生前処分と抵触する部分について遺言を撤回したものとみなされます。遺言者の生前には遺言の効力が未だ生じないため、このような自由が認められています。
3. 遺言によって利益を受けるものの地位
受遺者や相続分の指定を受けた相続人など、遺言によって利益を受ける者は、遺言者の死亡によって、はじめて法律上の権利を取得することになります。それゆえ、遺言者の生前には、これらの者が一切の権利を主張することはできず、例えば、受遺者が遺言者の死亡以前に死亡したときは、遺贈の効果そのものが生じないとされています。
遺言書が複数あった場合の遺言書の効力
1. 方式の確認
遺言者は、何回でも遺言を行うことができるため、遺言者の死後になって複数の遺言書が発見されると、どの遺言書が優先するのかが問題となります。
もっとも、遺言は要式行為ですから、発見された複数の遺言書について、それぞれが、遺言の形式を遵守しているかをまず確認する必要があります。形式を満たしていない遺言書は、そもそも法律上の遺言とはいえないため、遺言の優劣に関して考慮を行う必要がありません。
2. 遺言の撤回
遺言者には、遺言撤回の自由があり、後の遺言によって、前の遺言の全部又は一部を撤回することができます。「前の遺言を撤回する」と明記されていない場合でも、前の遺言と後の遺言が抵触する場合(前の遺言の内容と、後の遺言の内容が両立しない場合)には、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
このように、複数の遺言書が存在し、かつ前後の遺言の内容が抵触する場合、その優劣は、作成日の前後によって決することとなります。また、遺言の撤回は遺言の方式によって行わなければなりませんが、各遺言の方式を問いません。たとえば、公正証書でした遺言を、自筆証書遺言で撤回することも差し支えありません。
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